2025年11月16日、東京・有明アリーナ。「ONE 173」で元K-1三階級王者・武尊（34）がカナダのデニス・ピューリックを2ラウンドKOで下し、約1年2か月ぶりの復帰戦で白星を挙げた。しかし、その勝利の余韻も冷めやらぬ中、武尊は衝撃の一言を放った。「僕は次の試合で現役引退します」。
会場は一瞬静まり返ったが、この言葉には単なる引退宣言以上の意味がある。長年格闘技界で戦い続けてきた彼のキャリア哲学と、自分の理想の形で引退したいという強い意志の表れだ。では、なぜ武尊はこのタイミングで引退を決断したのか。その背景には、戦績へのこだわり、キャリア全体の計算、因縁の相手へのリベンジ、そして体との向き合いが絡み合っている。
戦績へのこだわり──「負けたら引退」という覚悟
武尊と言えば、「1回でも負けたら引退」という強烈な信念で知られる。勝つための努力はもちろんだが、負けないための準備にも徹底的にこだわる――それが彼の戦い方だ。
今回の復帰戦でも、その哲学は色濃く現れた。開始直後から圧力をかけ、相手を次々と追い詰める姿は圧巻。2ラウンド終盤のハイキックで決着をつけた瞬間、武尊の表情には安堵よりも**「自分のルールを守った」という確信**が宿っていた。
会見では、「前回ロッタン戦で負けた時から、引退のことを考えていた」とも語った。勝利は単なる結果ではなく、自分の引退のタイミングを自分でコントロールするための条件だったのだ。
キャリアの集大成としてのタイミング
格闘家にとって引退は、多くの場合“体力の限界や怪我”によって決まることが多い。しかし武尊の引退は違う。「衰えたからではなく、強い自分で終われる最後の時期」と語る通り、これは計算されたタイミングだ。
トレーニングやコンディション調整も、単なる“体力温存”ではなく、最も強く戦える状態を作るための戦略だった。年齢的には34歳でピークを過ぎたかもしれないが、技術や動きはまだ十分通用する。だからこそ、今の自分を最高の形で表現し、理想のラストマッチに挑む──これが武尊流のキャリア集大成だ。
満身創痍だったのか──身体的限界との向き合い
ファンの中には「怪我や疲労が理由では？」と思う人もいるだろう。確かに武尊も長年トップで戦ってきた格闘家。蓄積されたダメージは少なからずあるはずだ。しかしリングでの動きを見る限り、力強く、俊敏で、テクニックも衰えていない。決して満身創痍ではなかった。
むしろ彼の引退は、自分の体と向き合った上での判断だ。次のロッタン戦に向けて、最も効率的かつ安全にパフォーマンスを最大化するために選んだタイミングであり、まだ“戦える自分”で最後を迎えたいという意思の表れでもある。
最盛期は過ぎたのか──まだ戦える“武尊の基準”
「もう最盛期は過ぎたのでは？」という声もある。34歳、長年戦い続けた格闘家、確かに年齢的にはピークを少し超えているかもしれない。しかし武尊自身の判断は違う。彼にとって最盛期とは、単なる年齢や過去の勝利ではなく、**「まだ強く戦える自分の状態」**だ。
今回の試合で見せたキレのある動き、精度の高い打撃、冷静な判断力──これが彼の定義する“戦えるピーク”。外からの評価よりも、自分の基準で最高の状態を確認した上での引退決断なのだ。
因縁の相手との“完結”──ロッタン戦への想い
引退試合の相手に指名されたのは、元ONEフライ級王者ロッタン・ジットムアンノン。過去に敗れた因縁の相手であり、武尊にとって特別な意味を持つ。
「現役最高のコンディションで必ず勝って終わりたい」──この言葉には、ただの勝利以上の意味がある。過去の敗北を上書きし、自分のキャリアの物語を完結させるための戦い。それが武尊にとっての理想のラストマッチだ。
引退はいつ？──現役最後の舞台
では、具体的に武尊の引退はいつなのか。現時点で発表されているのは、来年2026年1月28日以降に予定されるロッタンとの再戦がラストマッチになる可能性が高いということだ。元々ロッタン戦は過去に予定されていたが、怪我やスケジュールの影響で延期されてきた経緯がある。
武尊自身も会見で「次の試合で引退」と語っており、最終的にはこの再戦でキャリアを締めくくる意志を示している。つまり、まだリング上での華麗な戦いを見られる時間は残っているが、これが文字通り**“ラストチャンス”**というわけだ。
最後に──戦う男の美学
武尊の引退は、年齢や衰えによるものではなく、自らの意思、戦績、理想の引退像に基づいた戦略的決断である。戦績へのこだわり、キャリア全体のタイミング、体との向き合い、そして因縁の相手とのリベンジ戦──すべてが彼の意思によって形作られている。
リングで見せるKOの華麗さだけでなく、その生き様そのものが武尊の引退に深い意味を与えている。まだラストマッチが控える今、ファンは胸を高鳴らせながら、彼が最高の状態で勝利し、自らの物語を完璧に締めくくる瞬間を待ち望んでいる。
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